きょーみ
『ちいさなうさこちゃん』や『りんごぼうや』の作者として有名なオランダの絵本作家ディック・ブルーナ。
代表作の一つであるミッフィー(『ちいさなうさこちゃん』)は、1955年に最初の絵本が出版されて以来、60年以上に渡って世界中の子どもたちに愛されています。
ブルーナの描く絵本は、なぜ世代を超えて人々の心を惹きつけるのか。
それはブルーナが絵本の読者である子どもの気持ちに徹底的に寄り添い、作品を変化させていったからに他なりません。
初期のミッフィーと、今のミッフィーでは絵本の作風や装丁が大きく異なるのです。
ディック・ブルーナの絵本が子どもに愛される5つのポイントを『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』に記されているブルーナ世界の秘密を参考にご紹介します。
もくじ
1. 正面を向くキャラクター
初期のミッフィーは耳が大きく横に垂れ、顔も下の方を向いています。
しかし、現在ミッフィーに出てくる絵本のキャラクターは全て正面を向いています。
本来であれば、進行方向を向いて描かれるはずの顔でさえ、全て正面を向いています。
絵本を読んでいる子どもは、正面を向いているキャラクターから安心感を得ることができます。
このブルーナの描き方には写実的な表現をしない代わりに、子どもたちにまずはキャラクターを好きになって欲しいというブルーナの意思が表れています。
2. 涙は一粒
ブルーナは悲しみを表すキャラクターの涙を、たった一粒の涙で表現します。
無駄を削ぎ落としシンプルにすることで、キャラクターの感情がダイレクトに読み手に伝わってきますね。
ブルーナの描くキャラクターの涙ですが、絵本を描き始めた当初から涙が一粒だったのかというと、実はそうではなかったようです。
最初はたくさんの涙を描きましたが、涙を一粒ずつ減らすうちに、より悲しい表情になることに気づきました
─ディック・ブルーナ
『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』pp.36 講談社(2018)
悲しみを表現するために行き着いた先が、1粒の涙でした。
試行錯誤の上、涙を一粒にしたという逸話には説得力があります。
3. 正方形の絵本
ブルーナの描く絵本は、全て正方形で製本されています。
『おうさま』や『りんごぼうや』、『ちいさなうさこちゃん』の初版は縦長でした。
それが子どもたちがおもちゃを取るように、手におさまる大きさを追求した結果、絵本は自然と正方形になったと言います。
絵本を購入する親を対象にするのではなく、絵本を本当に届けたい子どもと同じ目線になる、読者ファーストの精神が絵本に反映されています。
4. 子どもの集中力に合わせた長さ
ブルーナの絵本は、お話の長さが12場面に抑えられています。
12場面という長さは、読者へのアンケートも参考にしています。
読者の母親に対して、子どもが読書に集中できる時間はどれくらいかというアンケートを取ったところ、平均で5~10分でした。
幼児が遊びに集中できる時間、5~10分で読み終わる長さに支援と話の長さを調整しているのです。
物語は身近で普遍的なもので、12場面できちんとお話が完結するように描かれています。
5. 親子のコミュニケーションを想定した言葉選び
ブルーナの絵本に使われているオランダ語の原文について、心理学者のドルフ・コンスタム氏は以下のように述べています。
オランダの原文では、ふつうの幼児の語彙としては用いない、むずかしいと思われる単語がいくつも使われています。彼は、いわゆる幼児語を使わないのです。それは、ブルーナが絵本をまず自分自身のために描いており、そして、むずかしい単語は子どもたちにとって、なんの妨げにもならないと考えているからだと思います。つまり、親と子がコミュニケーションをもちながら本を読めばよいのです。ブルーナの絵本はおのずと、それを求めているのです。
─ドルフ・コンスタム
『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』pp.46 講談社(2018)
絵本は親子で一緒に読んで欲しいという想いから、絵本の中にあえて幼児語を使わないというこだわり。
日本の絵本で例えるなら、子ども向けの絵本に漢字まみれ、ルビなしの文字を入稿するようなもので、これは児童書の常識を逸脱していると言えます。
これはブルーナが、自分の絵本をどういうシチュエーションを読んで欲しいかという、実際に読者が絵本を読む瞬間の絵が頭の中で明確に描けれているからこそ成せる技です。
また、原文では文章は4行にまとめられ、2行目と4行目で韻を踏むように作られています。
言葉のリズムを揃えることで、子どもは簡単にフレーズを覚えることができます。
心地よいリズムの言葉は、繰り返し読みたくなるものです。
言葉によっても、想像力をかき立てる工夫が凝らされています。
おわりに
ディック・ブルーナの絵本が子どもに愛される5つのポイントをご紹介しました。
たとえメインターゲットが2~3歳の幼児であれ、本当に届けたい対象の立場になって、読者が本当に必要としているものを製作する。
これがディック・ブルーナの絵本が子どもに愛されるポイントです。
きょーみ
『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』は、ブルーナの生い立ちから作品に対するこだわりまで丁寧に綴られている良書です。
ディック・ブルーナについてさらに詳しく知りたい方は、ご一読をおすすめします。
関連記事
